2022年10月07日

連続ブログ小説「聖地の剣」(19)雨音を聞きながら

こんばんは。
屋外に強い雨の降る中、佐賀城本丸歴史館の見学を続けます。

佐賀駅に降り立ってから、まだ4時間しか経っていませんが、無理やり作った日程なので、そろそろ帰り道を意識する状況となっていました。


――激しい雨、そして強い風。

「外に居なくて良かった…」
そんな事を考えながら、館内の展示をつぶさに見ておく。

何の因果か、私が佐賀に滞在できる時間は短い。これが人一倍の気合いで、見学をする理由でもある。

私にとっては、いつでも見られる…わけではないのだ。貴重な時間である。


――たとえ、わずかな時間でも…

佐賀の空気を吸って、その雨音に耳を澄まし、もっと佐賀を感じねばならない。

そして、同じ展示でも以前の感想と、いまの見方はまったく異なる。

例えば幕末期の、現在の佐賀県域の状況を示した地図。いまは長崎県域で、かつて佐賀藩だった地域も表示されている。

連続ブログ小説「聖地の剣」(19)雨音を聞きながら

――私は、幕末期の「3つの佐賀」と呼ぶ。

現在の佐賀県域には佐賀藩だけでなく、唐津藩対馬藩田代領があった。
〔参照:「ロード・オブ・サガ ~三つの“佐賀”~(後編)」

特に佐賀藩には、県内各地に支藩自治領がある。そして、唐津藩の方では周辺に幕府領があったりと複雑だ。

以前の私は、同じ地図を見て「色々あり過ぎて、わかりづらい」と思っていた。


――ところが、今の私はこう考える。

「ひたすら近代化を進めて政局には中立的だった、佐賀藩。」
「幕末に老中格を出し、揺らぐ江戸幕府を支えた、唐津藩。」
「外国の脅威に直面し、攘夷派が勢力を伸ばした、対馬藩(田代領)。」

…おおっ、当時の佐賀は、まるで幕末の縮図!もはや、佐賀だけで一通りの物語になる!という感覚だ。

連続ブログ小説「聖地の剣」(19)雨音を聞きながら

――やはり、佐賀藩を軸に語るのだが、

現在の佐賀県域に生きた人々、それぞれの視点は大事に描きたい。

立場は違えど、佐賀県各地域から出た“”ある人物たちが、激動の幕末明治期を苦悩しながらも駆けていく。

時折、綴っている“本編”も足らないところばかりだが、いつか、そんな話を私は書きたい。


――雨足は、さらに強まっている…

畳敷きの廊下が眼前にひろがる空間。私は椅子に座って一息をついた。厚い雨雲に覆われた、外が暗いことは館内からもうかがえる。

佐賀城本丸の敷地内に、バシャバシャと雨音が響く。目を閉じれば感じられる景色は、幕末期と、そう変わらないのかもしれない。

ふと、昨日までの仕事の疲れを感じた。
「小さい…、私はあまりにも小さい事で悩んでいるぞ。」

郷里と離れた地で、非力な自分を感じながら、もがき続ける日常。私とて、ある意味では戦っていないわけではない。


――「佐賀の殿様、私は…頑張れているのでしょうか?」

ぼんやりと天井を見ながら、そう問いかけてみる。遠くで、が鳴った様子だ。重い雨音が続く。

「…さように生き急ぐでない。しばし、ゆるりとせよ。」
都合の良い解釈かもしれないが、そう言われた気がした。

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――仕事には厳しいお殿様だった、鍋島直正公。

ただ、部下の適性は見ていたようだ。佐賀藩では、“蘭学”で西洋を学ぶよう勧められても拒否する者もいたが、殿は彼らの自主性を重んじたようだ。

また期待をする者には、とにかく仕事を与える傾向はあった。但し、その配置を誤ったと悟った時は、自責の念に駆られていたように見受けられる。

私は先を急がず、この雨が止むまでは館内に留まろうと決めた。


(続く)





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