2020年09月30日
第14話「遣米使節」④(長崎街道の往来)
こんばんは。
前回は、佐賀・蓮池支藩の“忍者”・古賀が登場しました。長崎でイギリス船の動きを探る…など、情報収集の任務をこなし、今回は佐賀への帰路です。
一方で、佐賀と長崎を行ったり来たりの人もいます。殿・鍋島直正から“海軍”の創設を指示された、佐野栄寿(常民)です。
――長崎街道・塩田宿の茶店。
小倉から長崎までをつなぐ長崎街道。蓮池藩士・古賀は、街道を急ぐ人通りを眺めていた。
「皆、忙しかごたね…」
茶店の表に置かれた、広いちゃぶ台といった感じの席に腰掛ける。
「団子を一ついただこうか。」
背中合わせに座った武士も、一服する様子だ。

――この武士も蓮池藩の者である。古賀に連絡があるらしい。
「美味い団子であったぞ。」
武士は、古賀とは言葉を交わさず、勘定を済ませると早々に立ち去った。
桟敷に置かれた紙切れを、古賀が拾う。
「報告は届いたが、直に説明せよ。“蓮池の館”に向かえ。」という指示書である。
「人づかいの荒かごた…」
古賀が、少し不平を口にする。
蓮池支藩の居館は、現在の佐賀市内にある。
塩田宿は、現在の嬉野市であるから、移動もひと仕事になるのだ。
――そして蓮池藩士・古賀は“忍者”にあるまじき行動を取る。
「団子ば、もう一本もらえんね。」
節制を常とする“忍者”が、団子のお代わりを要求した。
そこに長い尻尾のネコが寄って来た。
古賀は団子を一つかみ、ネコの眼前でクルクルと回す。
「ほれほれ…」
「ニャーン!」
“癒し”を求めたのか、寄ってきたネコと戯れる蓮池藩士・古賀。やけにハッキリした鳴き声で、反応を返すネコ。
――すると今度は、隣に客が座った。年の頃は30代半ばの武士。
「可愛かネコですね。」
「…あぁ、儂はよく懐かれるのでな。」
“忍者”は寡黙で、人を寄せ付けない…というイメージでよく語られる。しかし、忍者が情報を集めるには“人あたり”の良さが必須だったとの説もある。
「塩田の津も、なかなかに賑わっとるばい。」
――初対面の相手にも遠慮なく話しかける、佐野栄寿(常民)である。
「…まぁ、じきに潮が引くからな。荷揚げも忙しかろう。」
お代わりの団子を口にしながら、古賀がつぶやく。
塩田津は“川の港”。
有明海の満潮時に、積荷を満載した船が塩田川を遡って入ってくる。
――天草(熊本)から“陶石”を積んだ船が、川岸に付ける。
「伊万里への積荷ですかね。」
「…詳しか事は、わからんばい。」
蓮池藩士・古賀は、やや警戒心を持った。
佐野栄寿(常民)の好奇心が強すぎるのである。
おそらくは長崎に向かう、佐賀本藩の武士だろうとは察していた。
しかし、佐賀藩士を装った外部からの密偵かも知れない。

――“忍者”である古賀としては、用心に越したことはない。
「…では、儂はこれにて。」
蓮池藩士・古賀は席を立った。
「そうたい!“潮の満ち引き”を使えば良かね!」
佐野は、何かを思いついたのか、にわかに大声を出した。
「…何に“満ち引き”ば使うとね?」
かえって無視すると不自然。古賀が佐野に尋ねた。
「これで、大船ば“修理”できっとです!」
佐野は、知り合ったばかりの古賀に向けて、満面の笑みを見せた。
(続く)
前回は、佐賀・蓮池支藩の“忍者”・古賀が登場しました。長崎でイギリス船の動きを探る…など、情報収集の任務をこなし、今回は佐賀への帰路です。
一方で、佐賀と長崎を行ったり来たりの人もいます。殿・鍋島直正から“海軍”の創設を指示された、佐野栄寿(常民)です。
――長崎街道・塩田宿の茶店。
小倉から長崎までをつなぐ長崎街道。蓮池藩士・古賀は、街道を急ぐ人通りを眺めていた。
「皆、忙しかごたね…」
茶店の表に置かれた、広いちゃぶ台といった感じの席に腰掛ける。
「団子を一ついただこうか。」
背中合わせに座った武士も、一服する様子だ。
――この武士も蓮池藩の者である。古賀に連絡があるらしい。
「美味い団子であったぞ。」
武士は、古賀とは言葉を交わさず、勘定を済ませると早々に立ち去った。
桟敷に置かれた紙切れを、古賀が拾う。
「報告は届いたが、直に説明せよ。“蓮池の館”に向かえ。」という指示書である。
「人づかいの荒かごた…」
古賀が、少し不平を口にする。
蓮池支藩の居館は、現在の佐賀市内にある。
塩田宿は、現在の嬉野市であるから、移動もひと仕事になるのだ。
――そして蓮池藩士・古賀は“忍者”にあるまじき行動を取る。
「団子ば、もう一本もらえんね。」
節制を常とする“忍者”が、団子のお代わりを要求した。
そこに長い尻尾のネコが寄って来た。
古賀は団子を一つかみ、ネコの眼前でクルクルと回す。
「ほれほれ…」
「ニャーン!」
“癒し”を求めたのか、寄ってきたネコと戯れる蓮池藩士・古賀。やけにハッキリした鳴き声で、反応を返すネコ。
――すると今度は、隣に客が座った。年の頃は30代半ばの武士。
「可愛かネコですね。」
「…あぁ、儂はよく懐かれるのでな。」
“忍者”は寡黙で、人を寄せ付けない…というイメージでよく語られる。しかし、忍者が情報を集めるには“人あたり”の良さが必須だったとの説もある。
「塩田の津も、なかなかに賑わっとるばい。」
――初対面の相手にも遠慮なく話しかける、佐野栄寿(常民)である。
「…まぁ、じきに潮が引くからな。荷揚げも忙しかろう。」
お代わりの団子を口にしながら、古賀がつぶやく。
塩田津は“川の港”。
有明海の満潮時に、積荷を満載した船が塩田川を遡って入ってくる。
――天草(熊本)から“陶石”を積んだ船が、川岸に付ける。
「伊万里への積荷ですかね。」
「…詳しか事は、わからんばい。」
蓮池藩士・古賀は、やや警戒心を持った。
佐野栄寿(常民)の好奇心が強すぎるのである。
おそらくは長崎に向かう、佐賀本藩の武士だろうとは察していた。
しかし、佐賀藩士を装った外部からの密偵かも知れない。
――“忍者”である古賀としては、用心に越したことはない。
「…では、儂はこれにて。」
蓮池藩士・古賀は席を立った。
「そうたい!“潮の満ち引き”を使えば良かね!」
佐野は、何かを思いついたのか、にわかに大声を出した。
「…何に“満ち引き”ば使うとね?」
かえって無視すると不自然。古賀が佐野に尋ねた。
「これで、大船ば“修理”できっとです!」
佐野は、知り合ったばかりの古賀に向けて、満面の笑みを見せた。
(続く)
Posted by SR at 21:44 | Comments(0) | 第14話「遣米使節」
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