2020年10月20日
第14話「遣米使節」⑪(名君たちの“約束”)
こんばんは。
“本編”に戻ります。第14話「遣米使節」すでに11回目の投稿ですが、あと4回くらいは要りそうです。
「大河ドラマ」ならば1話分が45分で、オープニングとエンディング(紀行)を入れれば、実質40分ほど…この展開では、おそらく尺が足らないのですが、このまま描きたいので、続行します。〔前回参照:第14話「遣米使節」⑩(秘密の航海)〕
――“トン・ツー・ツー・トン” 電信機で、信号を送る。
操作するのは佐賀藩士・中村奇輔。京都から来た“精錬方”の科学者である。
「中村さん、ゆくさ(ようこそ)おじゃった(お越しになった)。」
「こい(これ)は、おんし(お主)が?」
ザワザワとする薩摩藩士たち。
持参した電信機は、中村が作ったものである。
「西洋の物とて仕組みが明らかなら作れます。あとは“費用”の問題だけです。」
中村が、さらりと言ってのけた。
――場所は、薩摩(鹿児島)が力を注ぐ、近代化のための工場 “集成館”。
薩摩藩も研究開発に熱心である。中村の技術の価値も、すぐに理解される。
そんな薩摩の若者たちの標(しるべ)となる“光”が、薩摩藩主・島津斉彬。佐賀から蒸気船でやって来た、鍋島直正と、海沿いの庭園で歓談をする。
「さすがは、薩摩の”紅びいどろ”。鮮やかなものですな。」
殿・直正が、透き通った紅色のグラスを手に取り、見つめている。
「さすが佐賀の品、“隙の無い”仕上がりだな。」
一方、島津斉彬は、“肥前びいどろ”を見分していた。

――さて、この名君2人。会談の目的は“ガラス”の品評だけではない。
まず、口を開いたのは島津斉彬である。
「なにゆえ、一橋さまのご推挙に、お力添えくださらぬ?」
薩摩藩は、一橋慶喜を次期将軍に推す“一橋派”の急先鋒だった。佐賀の殿・直正はその活動から距離を置いている。
「それは、公儀(幕府)がお決めになること。外様の口出しは無用にござろう。」
蒸気船を乗り回しはするが、鍋島直正は秩序を重んじる“優等生”である。
「時勢は動くぞ。若年の上様(将軍)では、国の舵取りは難しいとは思わぬか。」
この頃、”一橋派”の理解者で、調整能力が抜群だった、老中・阿部正弘は既に逝去している。薩摩の殿・島津斉彬にも焦りがあった。
――佐賀と薩摩の殿様。話は並行線である。
達観したような表情の殿・直正。何か遠くを見通すような目である。
「…ほう、幼き頃と同じ顔をいたすのだな。」
島津斉彬と、年下の鍋島直正とは、母方のいとこで幼少期から交際がある。
「上様(将軍)のご推挙に口を出さば、相争うことにつながる。」
直正の心配事は、政治の主導権争いによる日本国内での“同士討ち”だった。
「その間に異国が割って入るのを、案じておられるか。」
「…ご明察。」
次期将軍の選定と、通商条約の締結は、この頃の二大争点だった。西洋文明の実力を知る名君2人は、異国の具体的な行動をイメージするのだ。

――手紙では、この“想い”までは通じない。
直正が危険を顧みず、薩摩への船旅を強行した理由でもあった。
ふふ…と笑う斉彬。
「相分かった。異国には付け入る隙を与えぬよう、肝に銘じておくとしよう。」
「約束ですぞ。くれぐれもお忘れ無きように。」
直正は子供のときのような、いたずらな笑みを見せた。
こうして“秘密の会談”を終えた、2人の名君。結論から言えば、この“約束”は果たされなかった。ほどなく、一方の当事者が世を去ったからである。
――蒸気船“観光丸”での帰路。
船長・佐野栄寿(常民)が、あらためて緊張している。
「佐賀に戻るまでが大事!帰り道こそ、気を引き締めねば!」
「佐野はん!気負い過ぎは、あきまへん(ダメですよ)。」
中村も少し気が抜けたのか、“京言葉”に戻っている。
「そうじゃ、佐野。伸び伸びとやればよい。」
殿・直正が船長に言葉をかける。しかし、佐野の緊張のもとは、その殿様を無事に送り届ける使命感からなのだ。
(続く)
“本編”に戻ります。第14話「遣米使節」すでに11回目の投稿ですが、あと4回くらいは要りそうです。
「大河ドラマ」ならば1話分が45分で、オープニングとエンディング(紀行)を入れれば、実質40分ほど…この展開では、おそらく尺が足らないのですが、このまま描きたいので、続行します。〔前回参照:
――“トン・ツー・ツー・トン” 電信機で、信号を送る。
操作するのは佐賀藩士・中村奇輔。京都から来た“精錬方”の科学者である。
「中村さん、ゆくさ(ようこそ)おじゃった(お越しになった)。」
「こい(これ)は、おんし(お主)が?」
ザワザワとする薩摩藩士たち。
持参した電信機は、中村が作ったものである。
「西洋の物とて仕組みが明らかなら作れます。あとは“費用”の問題だけです。」
中村が、さらりと言ってのけた。
――場所は、薩摩(鹿児島)が力を注ぐ、近代化のための工場 “集成館”。
薩摩藩も研究開発に熱心である。中村の技術の価値も、すぐに理解される。
そんな薩摩の若者たちの標(しるべ)となる“光”が、薩摩藩主・島津斉彬。佐賀から蒸気船でやって来た、鍋島直正と、海沿いの庭園で歓談をする。
「さすがは、薩摩の”紅びいどろ”。鮮やかなものですな。」
殿・直正が、透き通った紅色のグラスを手に取り、見つめている。
「さすが佐賀の品、“隙の無い”仕上がりだな。」
一方、島津斉彬は、“肥前びいどろ”を見分していた。
――さて、この名君2人。会談の目的は“ガラス”の品評だけではない。
まず、口を開いたのは島津斉彬である。
「なにゆえ、一橋さまのご推挙に、お力添えくださらぬ?」
薩摩藩は、一橋慶喜を次期将軍に推す“一橋派”の急先鋒だった。佐賀の殿・直正はその活動から距離を置いている。
「それは、公儀(幕府)がお決めになること。外様の口出しは無用にござろう。」
蒸気船を乗り回しはするが、鍋島直正は秩序を重んじる“優等生”である。
「時勢は動くぞ。若年の上様(将軍)では、国の舵取りは難しいとは思わぬか。」
この頃、”一橋派”の理解者で、調整能力が抜群だった、老中・阿部正弘は既に逝去している。薩摩の殿・島津斉彬にも焦りがあった。
――佐賀と薩摩の殿様。話は並行線である。
達観したような表情の殿・直正。何か遠くを見通すような目である。
「…ほう、幼き頃と同じ顔をいたすのだな。」
島津斉彬と、年下の鍋島直正とは、母方のいとこで幼少期から交際がある。
「上様(将軍)のご推挙に口を出さば、相争うことにつながる。」
直正の心配事は、政治の主導権争いによる日本国内での“同士討ち”だった。
「その間に異国が割って入るのを、案じておられるか。」
「…ご明察。」
次期将軍の選定と、通商条約の締結は、この頃の二大争点だった。西洋文明の実力を知る名君2人は、異国の具体的な行動をイメージするのだ。

――手紙では、この“想い”までは通じない。
直正が危険を顧みず、薩摩への船旅を強行した理由でもあった。
ふふ…と笑う斉彬。
「相分かった。異国には付け入る隙を与えぬよう、肝に銘じておくとしよう。」
「約束ですぞ。くれぐれもお忘れ無きように。」
直正は子供のときのような、いたずらな笑みを見せた。
こうして“秘密の会談”を終えた、2人の名君。結論から言えば、この“約束”は果たされなかった。ほどなく、一方の当事者が世を去ったからである。
――蒸気船“観光丸”での帰路。
船長・佐野栄寿(常民)が、あらためて緊張している。
「佐賀に戻るまでが大事!帰り道こそ、気を引き締めねば!」
「佐野はん!気負い過ぎは、あきまへん(ダメですよ)。」
中村も少し気が抜けたのか、“京言葉”に戻っている。
「そうじゃ、佐野。伸び伸びとやればよい。」
殿・直正が船長に言葉をかける。しかし、佐野の緊張のもとは、その殿様を無事に送り届ける使命感からなのだ。
(続く)
Posted by SR at 21:32 | Comments(0) | 第14話「遣米使節」
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