2020年09月26日
第14話「遣米使節」②(オランダ商館の午後)
こんばんは。
江戸時代“鎖国”が続いた時期も、日本と交流のあったオランダ。
商業上の思惑はあったとしても、日本に西洋との関わり方を助言し、近代海軍の育成にも協力を惜しみません。幕末期にも“親切”なオランダでした。
なお、各話をテーマ別に構成していますので、第12話「海軍伝習」の終盤と時期が重なっています。今回は、以下の投稿の少し後のお話です。
〔参照(後半):第12話「海軍伝習」⑧(いざ、長崎へ)〕
――1856年、長崎の出島。オランダ商館の午後。
「君タチはヨイ訓練がデキテル!私が退任シテモ、一層に励メ!」
強い語気で激励をする。長崎海軍伝習所の教官・ライケンである。
「モトシマ!若い者に負ケルナ!」
「カツ!船酔イは、気迫で乗リ切レ!」
「はい!ライケン教官!!」
佐賀藩士で、殿・鍋島直正の側近でもある、本島藤太夫が応答する。
「おう、合点(がってん)で!いや…、はい!ライケン教官!」
幕臣・勝麟太郎(海舟)。はじめに江戸ことばが出たが、要領よく声を揃えた。

――出島・オランダ商館の奥の方から、この館の主が姿を見せる。
「ハッハッハ…訓練の景色が見えるようです。」
オランダ商館長・クルチウスである。
「そしてライケンさん。ここは“海軍伝習所”ではありませんよ。」
「おお、商館長…これは癖だ。もはや治らん!」
――本島や勝がオランダ語に慣れても、やはりオランダ人同士の会話は段違いにスムーズである。
商館長・クルチウスには、さすがの教官・ライケンも一目おいている様子だ。
「長崎を去るそうだね。せっかくの機会だ。生徒たちも一緒にティータイムでもいかがか。」
昼下がりの紅茶を提案してきた商館長。海軍伝習所の教官・ライケンは、第一期の伝習終了後に、新任の教官と交代する予定だ。
〔参照(前半):第12話「海軍伝習」⑩-1(負けんばい!・前編)〕
――こうして商館の応接部屋に、紅茶の良い香りが漂う。
「いや…オランダのお茶も、乙(おつ)なもんですな。」
勝麟太郎が一口すすって、西洋茶の感想を述べる。
「わがオランダの紅茶を褒めてくれているだが、茶葉はウレシノだよ。」
商館長・クルチウスは、茶葉の生産地を述べた。
「耳慣れねぇ土地ですね。どこの島なんです?」
勝は、怪訝な顔をした。東南アジアのオランダ領には思い当たる地名が無い。

――佐賀藩士・本島が、商館長・クルチウスに確認する。
「佐賀の嬉野…にござりますか。」
「エエ、佐賀の茶葉デス。但し、紅茶は“発酵茶”で製法が違イマスガ。」
「我がオランダの者も、ここ長崎のオオウラサンと取引をしている。」
商館長が語った“オオウラさん”とは、長崎の商人・大浦慶である。
数年前、オランダ人に嬉野茶のサンプルを持たせて、いまやイギリスなどから大量の注文が出ている。
大浦慶は、当時まだ20代後半の女性で、凄腕の商人だった。
――“国際都市”長崎で海軍伝習を受ける、40代の本島藤太夫。
「オランダを通じ、もはや諸国とも“通商”が始まっておるに等しいか…」
このところ、西洋諸国が続々と「和親条約」を締結した。続いて“通商”の交渉も行われているらしい。
本島は、殿・鍋島直正の予測通り。あるいは、想定以上の速度で時代が進んでいくのを感じていた。
(続く)
江戸時代“鎖国”が続いた時期も、日本と交流のあったオランダ。
商業上の思惑はあったとしても、日本に西洋との関わり方を助言し、近代海軍の育成にも協力を惜しみません。幕末期にも“親切”なオランダでした。
なお、各話をテーマ別に構成していますので、第12話「海軍伝習」の終盤と時期が重なっています。今回は、以下の投稿の少し後のお話です。
〔参照(後半):
――1856年、長崎の出島。オランダ商館の午後。
「君タチはヨイ訓練がデキテル!私が退任シテモ、一層に励メ!」
強い語気で激励をする。長崎海軍伝習所の教官・ライケンである。
「モトシマ!若い者に負ケルナ!」
「カツ!船酔イは、気迫で乗リ切レ!」
「はい!ライケン教官!!」
佐賀藩士で、殿・鍋島直正の側近でもある、本島藤太夫が応答する。
「おう、合点(がってん)で!いや…、はい!ライケン教官!」
幕臣・勝麟太郎(海舟)。はじめに江戸ことばが出たが、要領よく声を揃えた。

――出島・オランダ商館の奥の方から、この館の主が姿を見せる。
「ハッハッハ…訓練の景色が見えるようです。」
オランダ商館長・クルチウスである。
「そしてライケンさん。ここは“海軍伝習所”ではありませんよ。」
「おお、商館長…これは癖だ。もはや治らん!」
――本島や勝がオランダ語に慣れても、やはりオランダ人同士の会話は段違いにスムーズである。
商館長・クルチウスには、さすがの教官・ライケンも一目おいている様子だ。
「長崎を去るそうだね。せっかくの機会だ。生徒たちも一緒にティータイムでもいかがか。」
昼下がりの紅茶を提案してきた商館長。海軍伝習所の教官・ライケンは、第一期の伝習終了後に、新任の教官と交代する予定だ。
〔参照(前半):
――こうして商館の応接部屋に、紅茶の良い香りが漂う。
「いや…オランダのお茶も、乙(おつ)なもんですな。」
勝麟太郎が一口すすって、西洋茶の感想を述べる。
「わがオランダの紅茶を褒めてくれているだが、茶葉はウレシノだよ。」
商館長・クルチウスは、茶葉の生産地を述べた。
「耳慣れねぇ土地ですね。どこの島なんです?」
勝は、怪訝な顔をした。東南アジアのオランダ領には思い当たる地名が無い。
――佐賀藩士・本島が、商館長・クルチウスに確認する。
「佐賀の嬉野…にござりますか。」
「エエ、佐賀の茶葉デス。但し、紅茶は“発酵茶”で製法が違イマスガ。」
「我がオランダの者も、ここ長崎のオオウラサンと取引をしている。」
商館長が語った“オオウラさん”とは、長崎の商人・大浦慶である。
数年前、オランダ人に嬉野茶のサンプルを持たせて、いまやイギリスなどから大量の注文が出ている。
大浦慶は、当時まだ20代後半の女性で、凄腕の商人だった。
――“国際都市”長崎で海軍伝習を受ける、40代の本島藤太夫。
「オランダを通じ、もはや諸国とも“通商”が始まっておるに等しいか…」
このところ、西洋諸国が続々と「和親条約」を締結した。続いて“通商”の交渉も行われているらしい。
本島は、殿・鍋島直正の予測通り。あるいは、想定以上の速度で時代が進んでいくのを感じていた。
(続く)
Posted by SR at 20:05 | Comments(0) | 第14話「遣米使節」
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