2020年01月25日
第1話「長崎警護」⑦
こんにちは。
第1話「長崎警護」の最終盤になって、ようやく“佐賀の七賢人”鍋島直正が登場します。詳しくいうと、誕生から小学生くらいの年齢に成長します。
この大河ドラマのイメージですが、とくに序盤は1話あたりの年数が長く、登場人物も多いので展開はとても早いです。
長編だった第1話も、もうすぐ終了。75分の放送時間で60分頃のイメージです。
⑦若君は江戸の藩邸に
――あの事件からおよそ6年後。
フェートン号事件の失態で長崎警備には一切、手を抜けなくなったが、佐賀藩は日常を取り戻していた。

――江戸の佐賀藩邸。
藩主・鍋島斉直の正室は、鳥取藩(池田家)より嫁いだ幸姫。
2人の間には世継ぎとなる嫡子・貞丸も誕生した。
「幸!でかした!」
「若君は、強い子に育てとうございます。」
武勇に優れる鳥取藩・池田家。
貞丸にはその血筋も受け継がれていたのである。
この貞丸こそが、後の鍋島直正である。
母の想いが実ったのか、貞丸は武芸の稽古を怠ることはなかった。
――しかし、藩主・鍋島斉直の暮らし向きは贅沢になっていった。
さらに歳月は流れ、フェートン号事件からも十数年が経過した頃。
事件を忘れ去ろうとする者も多かった。
「謹慎の頃は実に窮屈であった…。あのような暮らしは二度と御免じゃ。」
「御意にござります。かって窮屈な思いをされた分、少し羽を伸ばされても良いかと。」
「そうじゃな。」
斉直は都合の良いことを言う側近を重用するようになっていた。
しかし、事件を忘れず、苦言を呈し続ける人物もいた。
「古賀穀堂が、殿にお目通りを願っております。いかがなさいましょうか。」
「何…また穀堂か。気が乗らぬ。忙しいと言って断れ。」
――佐賀藩の儒学者である古賀穀堂。
フェートン号事件に強い衝撃を受けた1人である。
「儂の学んできた儒学では、国は守れぬ。異国船に儒学の理は通じぬのだ…」
「兵を満足に動かせるためには、国が富む必要がある。実践できる学問を大事にせねば!」
古賀穀堂は、藩主・斉直に様々な改革案を提出していた。そして説明にも足を運んでいたのである。
しかし最近では、斉直に会うことができない状況が続いていた。
はっきり言えば藩主にも側近たちにも煙たがられていた。
「お主のような学者は考えることが仕事であろうが、儂らはそうではないのでな。」
側近の1人は、穀堂を嘲笑するかのように言い放った。
「本日は、これにて失礼する!」
今日も斉直に会うことができなかった穀堂。
「あやつのような、学ばない者が殿の傍に居てはならぬ…」
帰り道、穀堂は怒りを抑えるのに必死だった。
――しかし、希望の灯はあった。
藩主・鍋島斉直は妙案を思い付いた。
「正直、穀堂の話を聞くのは気詰まりだ。しかし語る中身は正しいのであろう。」
「では、いかがいたしますか。」
「世継ぎの貞丸に、学問を講ずる栄誉を与えよう。」
「ははは…さすがは殿!それは良き策にございますな。」
斉直の発案に対して、側近はすかさず相槌を打った。
――古賀穀堂は、幼い貞丸(後の鍋島直正)に学問を教え始めた。
「こくどう!お主は余がまなべば、民をしあわせにできると申しておったな。」
「申し上げました。若君。」
貞丸は前回の穀堂の話を良く覚えていた。
「では、余はたくさん学ぶことにするぞ。」
「良い心掛けです。」
「どの国の若君よりも、いちばん学ぶぞ。」
「おおっ!」
若君の力強い宣言に、穀堂は笑みを浮かべた。
――そして、教育係・穀堂の貞丸への期待は高まっていく。

「この若君であれば…貞丸様なれば、佐賀を救えるかもしれぬ。」
「こくどう!ハゼの木を植えて豊かになる話を、いま一度おしえよ!」
「先日、たまたま口走ったことを!何たる利発さ…」
「こくどう!田畑をたがやす者が、土地を失っておるとも聞くぞ。」
「…これは、佐賀だけの話ではないぞ。あるいは、この国の全てを救うお方かも知れぬ…」
習うだけでなく、自身で学問を深めていく貞丸。熱心な若君に穀堂は感嘆した。
「穀堂は一番学ぶ若君の先生ゆえ、師として、もっと学ばねばなりませぬ…」
次第に穀堂の目頭は熱くなっていった。さりげなく若君から視線を外し、藩邸の庭を見やる。
「こくどう?どうしたのだ…?」
「若君は頼もしくなられていきますな。それにしても…今日は陽の光がまばゆい!しばし、お待ちあれ。」
…穀堂は、不意に出てきた感激の涙に慌て、柄にもない照れ隠しをした。
(次回:第2話「算盤大名」に続く)
第1話「長崎警護」の最終盤になって、ようやく“佐賀の七賢人”鍋島直正が登場します。詳しくいうと、誕生から小学生くらいの年齢に成長します。
この大河ドラマのイメージですが、とくに序盤は1話あたりの年数が長く、登場人物も多いので展開はとても早いです。
長編だった第1話も、もうすぐ終了。75分の放送時間で60分頃のイメージです。
⑦若君は江戸の藩邸に
――あの事件からおよそ6年後。
フェートン号事件の失態で長崎警備には一切、手を抜けなくなったが、佐賀藩は日常を取り戻していた。

――江戸の佐賀藩邸。
藩主・鍋島斉直の正室は、鳥取藩(池田家)より嫁いだ幸姫。
2人の間には世継ぎとなる嫡子・貞丸も誕生した。
「幸!でかした!」
「若君は、強い子に育てとうございます。」
武勇に優れる鳥取藩・池田家。
貞丸にはその血筋も受け継がれていたのである。
この貞丸こそが、後の鍋島直正である。
母の想いが実ったのか、貞丸は武芸の稽古を怠ることはなかった。
――しかし、藩主・鍋島斉直の暮らし向きは贅沢になっていった。
さらに歳月は流れ、フェートン号事件からも十数年が経過した頃。
事件を忘れ去ろうとする者も多かった。
「謹慎の頃は実に窮屈であった…。あのような暮らしは二度と御免じゃ。」
「御意にござります。かって窮屈な思いをされた分、少し羽を伸ばされても良いかと。」
「そうじゃな。」
斉直は都合の良いことを言う側近を重用するようになっていた。
しかし、事件を忘れず、苦言を呈し続ける人物もいた。
「古賀穀堂が、殿にお目通りを願っております。いかがなさいましょうか。」
「何…また穀堂か。気が乗らぬ。忙しいと言って断れ。」
――佐賀藩の儒学者である古賀穀堂。
フェートン号事件に強い衝撃を受けた1人である。
「儂の学んできた儒学では、国は守れぬ。異国船に儒学の理は通じぬのだ…」
「兵を満足に動かせるためには、国が富む必要がある。実践できる学問を大事にせねば!」
古賀穀堂は、藩主・斉直に様々な改革案を提出していた。そして説明にも足を運んでいたのである。
しかし最近では、斉直に会うことができない状況が続いていた。
はっきり言えば藩主にも側近たちにも煙たがられていた。
「お主のような学者は考えることが仕事であろうが、儂らはそうではないのでな。」
側近の1人は、穀堂を嘲笑するかのように言い放った。
「本日は、これにて失礼する!」
今日も斉直に会うことができなかった穀堂。
「あやつのような、学ばない者が殿の傍に居てはならぬ…」
帰り道、穀堂は怒りを抑えるのに必死だった。
――しかし、希望の灯はあった。
藩主・鍋島斉直は妙案を思い付いた。
「正直、穀堂の話を聞くのは気詰まりだ。しかし語る中身は正しいのであろう。」
「では、いかがいたしますか。」
「世継ぎの貞丸に、学問を講ずる栄誉を与えよう。」
「ははは…さすがは殿!それは良き策にございますな。」
斉直の発案に対して、側近はすかさず相槌を打った。
――古賀穀堂は、幼い貞丸(後の鍋島直正)に学問を教え始めた。
「こくどう!お主は余がまなべば、民をしあわせにできると申しておったな。」
「申し上げました。若君。」
貞丸は前回の穀堂の話を良く覚えていた。
「では、余はたくさん学ぶことにするぞ。」
「良い心掛けです。」
「どの国の若君よりも、いちばん学ぶぞ。」
「おおっ!」
若君の力強い宣言に、穀堂は笑みを浮かべた。
――そして、教育係・穀堂の貞丸への期待は高まっていく。

「この若君であれば…貞丸様なれば、佐賀を救えるかもしれぬ。」
「こくどう!ハゼの木を植えて豊かになる話を、いま一度おしえよ!」
「先日、たまたま口走ったことを!何たる利発さ…」
「こくどう!田畑をたがやす者が、土地を失っておるとも聞くぞ。」
「…これは、佐賀だけの話ではないぞ。あるいは、この国の全てを救うお方かも知れぬ…」
習うだけでなく、自身で学問を深めていく貞丸。熱心な若君に穀堂は感嘆した。
「穀堂は一番学ぶ若君の先生ゆえ、師として、もっと学ばねばなりませぬ…」
次第に穀堂の目頭は熱くなっていった。さりげなく若君から視線を外し、藩邸の庭を見やる。
「こくどう?どうしたのだ…?」
「若君は頼もしくなられていきますな。それにしても…今日は陽の光がまばゆい!しばし、お待ちあれ。」
…穀堂は、不意に出てきた感激の涙に慌て、柄にもない照れ隠しをした。
(次回:第2話「算盤大名」に続く)
Posted by SR at 11:58 | Comments(0) | 第1話「長崎警護」
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