2022年07月26日

連続ブログ小説「聖地の剣」(5)車上より、ご無礼を

こんばんは。佐賀駅に到着してから、概ね30分が経過。

地元にお住まいの皆様には、今ひとつピンとこないと思われますが、私の現地取材は大体、限られた時間との戦いになります。

観光地として佐賀を見た場合、どちらかと言えば「ゆっくりできる場所」を強調しているイメージです。

ところが、“聖地”として佐賀を訪れた場合は、これほどまでに忙しい…という、珍しい類型のレポートとしてご覧ください。


――「コムボックス」から、佐賀駅バスセンターに移動する。

また、『ゾンビランドサガ』の話題になるが、佐賀市営バスには、同アニメのイラストが全面を飾るラッピングバス・“フランシュシュ号”が存在したという。

厳密には、もっと進んで内装車内放送までコラボレーションした車両だったと聞く。事情を知らない人が乗ろうものなら、困惑すること間違いなしだろう。

同作品の熱烈なファンですら「公共交通で、この車両は大丈夫なのか…」と、ざわめくほどだった…という話もあるそうだ。



――例によって、私は“帰藩”できなかったうちに、

ゾンビランドサガ』仕様の特別車両の、現物を見る機会を逸したようだ。今年(2022年)1月までは走っていたらしい。

写真等で見る限り、そのバスの車体後面には「乗りますか?ノリノリですか?」という、とてもノリの良いセリフが記されていたようだ。

そして、このセリフは「佐賀の特産品・海苔と掛けていたのかもしれない!」という事に今頃、思い至った。


――「ああ、乗るとも。私も、バスに乗りますとも!」

話は横道に逸れつつ展開するが、佐賀駅バスセンターに着いた時点に戻る。

もちろん、その時に眼前の乗り場へと進み出でたのは、普通の佐賀市営バスの車両。しかし、時間の限られた私には、強い味方の登場と言える。


――そして、到着したバスの車両は空いていた。

ゆっくり歩いて、久しぶりの中央大通りを眺めたくもあるが、ここはスピード感を持って動くことが大事だ。

混雑時を外したとはいえ、乗客数が少ないのはゆゆしき問題だが、急がねばならぬ私にはありがたい状況だろう。

バスの乗車もスムーズ。座席も悠々で、すみやかに発進した。目指すは佐賀城方面。次の目的地は県立博物館である。


――車窓に流れる、久々の佐賀市内の風景。

本来なら、立ち寄りたかった場所があった。幕末佐賀藩の“賢人たち”の像が揃う『駅前まちかど広場』である。

バスは南に少し進み、佐賀市役所そばの通りを抜けて右折。そして中央大通りに左折合流して、そのままにある佐賀城の方面へと進む路線だ。



その中央大通りに入る直前だが、右手10名もの銅像が集う一角がある。

そこには、明治期にも活躍した“佐賀の七賢人”に、佐賀志士たちの先生枝吉神陽が集う。ここまで8名


――幕末の黎明期に活躍した2名の姿もある。

佐賀七賢人”の中心人物・鍋島直正の両側に控える。この2人が追加されているのが、渋好みである。

幕末の名君鍋島直正師匠で、佐賀藩建て直しの策を練った古賀穀堂

直正公の義兄で、日本近代化のトップランナー佐賀藩を、さらに一歩先から引っ張る役回りがあった、武雄領主・鍋島茂義

幕末期の佐賀藩大河ドラマになれば、この2人は“イケオジ”(格好の良い年配男性)枠の俳優さんで決まりだろう。


――以上、この広場には10名の賢人たちの姿があるのだが、

佐賀で、私が活動できる時間は短い。今回に至っては“先輩たち”の姿は、遠く車窓から追うのみ。

車上より、ご無礼をいたします!」
本来ならば、お近くまで“ご挨拶”にうかがうべきで、そうすれば“先輩たち”は、きっと私に何かを教えてくれるのだが…

私はそんな心持ちで、流れる景色を見つめた。

すると、バスの窓ガラスが、まるで「現代と、幕末期を隔てる“時間の壁”」に見えてくる感覚もあって、これはこれで面白い。


――『駅前まちかど広場』を、走るバスの車窓より望むわずかな時間。

私にはこんな声が、口々に聞こえてくるような気がした。

「まったく…お主は慌ただしい。もう少し、時は取れぬのか。」
おいの“出番”が、少なくなかね!?しっかり調べんばならんばい!」

それだけ、活き活きとした景色だが、あっという間にバスは左へと旋回し、その場を通過した。

今日も佐賀市営バスは、乗客を運ぶ“使命”を果たすのだろう。その足取りは頼もしい。速度を緩めず、中央大通りを南へと駆けてゆく。


(続く)