2020年06月23日
第11話「蝦夷探検」⑨(“犬塚”の別れ)
こんばんは。
札幌を創った男・島義勇、そして同僚の犬塚与七郎。2人の佐賀藩士の“蝦夷地”への旅路を描いています。
どんどん雪国に入って行きますので、「とにかく寒い!」と思いながら、ご覧いただければ幸いです。

――安政4年(1857年)旧暦2月。極寒の東北。現在の盛岡辺り。
「うう”っ…寒かごだぁ~」
温暖の地に慣れている“さがんもん”2人。
東北の真冬の寒さは半端ではない。特に犬塚には応えている様子だ。
「もう駄目じゃ…」
「ほら、犬が温かごたぞ!しっかりせんね。」
島義勇(団にょん)が声を掛ける。
「だがら…“犬”じゃなか!犬塚ですばい…」
寒さに悶絶しながらも、いつもの反応を返す、犬塚。
――島が差し出したのは、毛並みのモフモフとした子犬である。
「そこの屋敷の者に借りてきた。」
犬種としては、秋田犬に近い類であろうか。うっかり近づくと、噛まれるのだが、そこは“団にょん”である。既に馴染んでいる様子だ。
ハッ、ハッ!
白い息を吐く犬。まるで“暖房器具”の扱いだ。クルクルとした目である。
「ありがたかです…」
冷え切った手を温める、犬塚。
尻尾を振る犬。将来は、立派な猟犬に育つのであろう。
――安政4年(1857年)旧暦3月。佐賀を出立しておよそ半年。ようやく箱館(函館)に到着する。
ここまで海岸線の防衛と、特産品の販路などをイメージしながら、各地域の調査を続けながら北上してきた。
「険しか道のりでしたね。」
「めったに目にできぬ諸国の様子が知れたのだ。有難いことじゃ。」
「たしかに、そがんですね。」
「ワシも、殿の目となり、足となったつもりじゃ。」
島義勇。初心を忘れていない。

――開港後は、異国船の“補給基地”としても賑わう箱館(函館)。この街で会うべき人物がいる。
「肥前佐賀、鍋島家中の者で、島団右衛門と申す!」
「同じく、犬塚与七郎にござる。」
2人が仰々しく、挨拶をしている相手が、“松浦武四郎”だ。
“蝦夷地”のエキスパートとして、幕府に雇われている。
「堅苦しいご挨拶は苦手でな。手短かにお願いしたい。」
当時の松浦は、“箱館奉行所”の関係者とお考えいただきたい。
――松浦は、十代の頃から旅から旅に生きている。自分の感性を大事にする“探検家”である。
「俺も若い時分には、長崎に居たこともある。佐賀の者は、真面目で賢いが…面白味は無いな。」
「なんだと!」
その言葉を聞くなり、“団にょん”が立ち上がる。真っ直ぐな分、カッと来やすいタイプである。
「待たんね、“団にょん”さん!わりと褒められとるばい!」
犬塚が言葉を掛ける。
「…ん!?」
一時停止する“団にょん”。
「真面目で賢い…そうじゃな!松浦どの、わかっておるではないか!」
くるりと表情が変わる。笑顔だ。
――「ハッハッハ…!」笑い始める、松浦武四郎。
「たしか、島どの…であったか。俺は前言を取り消す。」
まだ、笑いが止まらない松浦。
「ほう、なんじゃ!?」
「面白味のある…佐賀の者もいるようだ!」
「箱館奉行所には口を利いておく。“御調べ”に加わってみるか。」
松浦は、普通の侍ではない。ほどなく島義勇と犬塚与七郎は、奉行所の“蝦夷探索”に加わる許可を得た。

――しかし、箱館および蝦夷地の様子は、島義勇たちの想像を超えていた。
「“団にょん”さん。あの男…どうやら長州(山口)者のごたです。」
「犬塚。そう言えば、ワシは宇和島(愛媛)から来た者を見かけたぞ。」
この頃、外様の“雄藩”も、次々に家臣たちを“蝦夷地”に派遣していた。
情報を集めても、幕府への手続きで、先手を取られては圧倒的に不利である。
――箱館の滞在中に明らかになってくる、沿海の諸藩の動き。
「犬塚。これは二手に分かれた方が良いかもしれぬな…」
「“団にょん”さん。今日は冴えとりますね。どがんしたとですか。」
「“犬っ”!ワシはいつでも冴えとるばい!」
「犬じゃなかです…、犬塚たい…。“団にょん”さん、“蝦夷地”は厳しか所です。くれぐれもお気をつけて。」
――こうして、島と犬塚の2人は、別行動を取ることを決めたのである。
名残り惜しそうな、犬塚与七郎。“蝦夷地”で見聞した現況を、佐賀に持ち帰って準備を進める役回りを引き受けた。
ここまで辛い旅路を乗り越えてきた“相棒”。見送る島義勇も涙目だった。
「犬塚…お主も、帰りの道中、達者でな…」
そして島義勇は、松浦武四郎らとともに“蝦夷地”の探索に入るのである。
(続く)
札幌を創った男・島義勇、そして同僚の犬塚与七郎。2人の佐賀藩士の“蝦夷地”への旅路を描いています。
どんどん雪国に入って行きますので、「とにかく寒い!」と思いながら、ご覧いただければ幸いです。

――安政4年(1857年)旧暦2月。極寒の東北。現在の盛岡辺り。
「うう”っ…寒かごだぁ~」
温暖の地に慣れている“さがんもん”2人。
東北の真冬の寒さは半端ではない。特に犬塚には応えている様子だ。
「もう駄目じゃ…」
「ほら、犬が温かごたぞ!しっかりせんね。」
島義勇(団にょん)が声を掛ける。
「だがら…“犬”じゃなか!犬塚ですばい…」
寒さに悶絶しながらも、いつもの反応を返す、犬塚。
――島が差し出したのは、毛並みのモフモフとした子犬である。
「そこの屋敷の者に借りてきた。」
犬種としては、秋田犬に近い類であろうか。うっかり近づくと、噛まれるのだが、そこは“団にょん”である。既に馴染んでいる様子だ。
ハッ、ハッ!
白い息を吐く犬。まるで“暖房器具”の扱いだ。クルクルとした目である。
「ありがたかです…」
冷え切った手を温める、犬塚。
尻尾を振る犬。将来は、立派な猟犬に育つのであろう。
――安政4年(1857年)旧暦3月。佐賀を出立しておよそ半年。ようやく箱館(函館)に到着する。
ここまで海岸線の防衛と、特産品の販路などをイメージしながら、各地域の調査を続けながら北上してきた。
「険しか道のりでしたね。」
「めったに目にできぬ諸国の様子が知れたのだ。有難いことじゃ。」
「たしかに、そがんですね。」
「ワシも、殿の目となり、足となったつもりじゃ。」
島義勇。初心を忘れていない。

――開港後は、異国船の“補給基地”としても賑わう箱館(函館)。この街で会うべき人物がいる。
「肥前佐賀、鍋島家中の者で、島団右衛門と申す!」
「同じく、犬塚与七郎にござる。」
2人が仰々しく、挨拶をしている相手が、“松浦武四郎”だ。
“蝦夷地”のエキスパートとして、幕府に雇われている。
「堅苦しいご挨拶は苦手でな。手短かにお願いしたい。」
当時の松浦は、“箱館奉行所”の関係者とお考えいただきたい。
――松浦は、十代の頃から旅から旅に生きている。自分の感性を大事にする“探検家”である。
「俺も若い時分には、長崎に居たこともある。佐賀の者は、真面目で賢いが…面白味は無いな。」
「なんだと!」
その言葉を聞くなり、“団にょん”が立ち上がる。真っ直ぐな分、カッと来やすいタイプである。
「待たんね、“団にょん”さん!わりと褒められとるばい!」
犬塚が言葉を掛ける。
「…ん!?」
一時停止する“団にょん”。
「真面目で賢い…そうじゃな!松浦どの、わかっておるではないか!」
くるりと表情が変わる。笑顔だ。
――「ハッハッハ…!」笑い始める、松浦武四郎。
「たしか、島どの…であったか。俺は前言を取り消す。」
まだ、笑いが止まらない松浦。
「ほう、なんじゃ!?」
「面白味のある…佐賀の者もいるようだ!」
「箱館奉行所には口を利いておく。“御調べ”に加わってみるか。」
松浦は、普通の侍ではない。ほどなく島義勇と犬塚与七郎は、奉行所の“蝦夷探索”に加わる許可を得た。
――しかし、箱館および蝦夷地の様子は、島義勇たちの想像を超えていた。
「“団にょん”さん。あの男…どうやら長州(山口)者のごたです。」
「犬塚。そう言えば、ワシは宇和島(愛媛)から来た者を見かけたぞ。」
この頃、外様の“雄藩”も、次々に家臣たちを“蝦夷地”に派遣していた。
情報を集めても、幕府への手続きで、先手を取られては圧倒的に不利である。
――箱館の滞在中に明らかになってくる、沿海の諸藩の動き。
「犬塚。これは二手に分かれた方が良いかもしれぬな…」
「“団にょん”さん。今日は冴えとりますね。どがんしたとですか。」
「“犬っ”!ワシはいつでも冴えとるばい!」
「犬じゃなかです…、犬塚たい…。“団にょん”さん、“蝦夷地”は厳しか所です。くれぐれもお気をつけて。」
――こうして、島と犬塚の2人は、別行動を取ることを決めたのである。
名残り惜しそうな、犬塚与七郎。“蝦夷地”で見聞した現況を、佐賀に持ち帰って準備を進める役回りを引き受けた。
ここまで辛い旅路を乗り越えてきた“相棒”。見送る島義勇も涙目だった。
「犬塚…お主も、帰りの道中、達者でな…」
そして島義勇は、松浦武四郎らとともに“蝦夷地”の探索に入るのである。
(続く)
Posted by SR at 21:38 | Comments(0) | 第11話「蝦夷探検」
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